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by lungs_ok
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アカデミックの場から遠く離れて。

美術史を専攻した学生時代にお世話になった先生が、
今年で退官なされるというので、その最終講義を聴きにいった。

会場には何百人かの人たちが訪れ、
同じ研究会に所属していた人も何人か来ていて、
彼/彼女たちとは約10年ぶりに再会したのだが、
全然変わっていないことに驚いた。
もうちょっと、シワが増えるとか、白髪が出るとか、
背が伸びるとか、変化があっても良さそうなものなのに…ね。
先生もお変わりなく、むしろ若返ってないか?とさえ思われるのだった。

壇上に立った先生の姿は、
ネイビーブルーのダブルブレステッドのスーツに身を包み、
(6ボタン下ボタン一つ掛け)
白のセミワイドカラーのシャツに、
ネイビーブルーとシルバーが幅1cmくらいの細いストライプになったタイ、
外羽根の黒いプレーントゥという、ややフォーマルな印象。

無我夢中でノートを取っていた当時の僕自身とは打って変わり、
ノートを取るスピードも遅くなり、
ノートを取るまでに話を覚えていられる記憶力のバッファも少なくなったのだが、
久方ぶりに聴いた講義内容は、
色彩論における様式の問題に関する、
非常に高度かつ難解な内容だったものの、
当時、お聴きしていた議論の延長上に成り立っていたものだった。

#「高貴な単純さと静謐な威厳」(ヴィンケルマン)とか出てくるし、
#当時盛んに取り上げていた、
#R.クラウスの『オリジナリティと反復』が参考文献に挙がっていたし。
#もちろん、ゲーテも、クレーも。

だからなんというか、
同期の変化のなさと、
前回の続きから始まったような講義内容とが相まって、
ちょっと長い夏休み/冬休みが明けた、
最初の講義開始の日のような気分になったのである。

けれども、
予定の終了時刻が近づくにつれて、
この手の講義はもう二度と聴けなくなるのかと思うと切なくもあり、
過去に数年間でも講義を聴けたことと、
そして最終講義を聴けたことに対する感謝の念が禁じえなかった。

そのようなセンチメンタルな感情を抱く一方で、
アカデミックの場から遠く離れ、
俗世間にまみれて
(どちらかというと)タフでハードな日々を過ごしてきた今の僕から見れば、
先生という一人の男が、ひとつのことに人生を賭して取り組んできた、
仕事の集大成のひとつのかたちが、この最終講義なのではないかと感じられ、
その姿は、非常にカッコ良く、美しいものとして映るのだった。

「芸術は、政治や宗教とは違って、
 批評のできる点が良いところです。批判ではなくね」

いちばん最後に語られた言葉は、
確か、学生時代の最終講義でも耳にした言葉だったが、
改めて印象に残るものだったのである。
by lungs_ok | 2009-02-10 18:35 | [diary]